GOLDEN NIGHTが好きすぎてつらい

GOLDEN NIGHTが好きすぎてつらい

オタクの記録と考察

髑髏城の七人 Season月 下弦の月 2/10マチネ・ソワレ 感想

手元にあった髑髏城のチケットがすべてなくなりました。2/10(土)のマチソワがわたしの千秋楽でした。いやぁ〜〜〜舞台ってほんとおもしろいですね…。毎度観るたびに抱く感想が違う。同じキャストの同じ演目を観てるはずなのにな…。

今回はもう上弦を引きずってはいなかったんですが(ライビュの記事参照)、マチソワの計8時間近くずーっと考え込みながら観ていたせいかどっと疲れてしまいました。今更ながらに気付きましたが、芸術分野の鑑賞って舞台に限らず作品の展示でもおもしろいけど精神的にすごく疲れるんですよ。観るのにエネルギーがいるというか。多分ですけど、普段20%くらいしか開いてない感受性の扉を120%くらいこじ開けて観るからなんだろうな。普段の生活でいかに自分が物事に対して鈍い状態でいるのかを思い知らされた気がします。心に鈍感でいることって麻痺してくると楽だから。よく笑ってすぐ感動してうるうるしてる宮野さんを見ると、あぁ〜役者さんだなあって思う。感性を晒してる面積がきっと全然違う。すごいなあ、好きだなあ。

 

話が逸れましたが、今回の観劇中ずっと考えてたことは「人はわかり合えない」というテーマについて。

上弦のライビュを観たあたりから、視点を捨之介に寄って観るのではなくて、自然と天魔王に寄せて観るようになった気がします。そうした視点で観て感じたのは、天魔王にトドメを刺したのは皮肉にも天魔王を救おうとしていた捨之介なんじゃないかということでした。

捨蘭天の関係性を考えたときに、あの3人はお互いのことをどう見ているのかってすごく興味深い。あの3人にピントを絞って観劇したときに見えたのは、信長公というただひとりの自分のすべてだった人を失くした3人が、主の死をどう受け止め、柱がなくなった世界で遺された主の言葉をどう処理してどう生きるのか、という物語でした。結果的には天蘭は城で命を捨てて、捨之介だけが生き残るわけですが、その結末のヒントになる台詞が「お前に何がわかる」なのではないかと思いました。

捨之介だけがどこまでも情が深くて全員を救おうとしていた中、二幕の蘭天からはことごとく和解の道を拒否されるわけですが、天魔王はともかく蘭兵衛にさえもこの台詞を言われています。

 

蘭「捨之介。……お前にはわからぬよ」

天「貴様に天の何がわかる!私こそが天だ!!」

 

「(捨之介には)わからない」というキーワード。表記で違いをつけると個人的には「分かる(共感する)」と「解る(理解する)」がしっくりきますが、後者の方は「同じ経験をした者にしか理解できない感覚」だと思っていて、蘭天が捨に訴えているのはこっちなのかなと思います。

3人は殿に仕えていたときに、一蓮托生で信長公に身も心も夢中だったと捨之介は語っていました。環境として蘭天が小姓として殿の側に、捨は地に紛れて時事調査ということは、物理的にこの2人と捨は殿との距離が違っただろうし、関わる人の質も違います。想像ですが、殿に可愛がられる蘭兵衛に対して天魔王は猛烈なコンプレックスを抱いていたのではないか。対して捨之介は外の世界にいたので比較的広い視野を持って活動できていたんじゃないかなと想像していますが、その経験なく殿と蘭兵衛のそばにいた天魔王わりと生き地獄じゃない?天魔王の態度が蘭兵衛と捨之介で差がずいぶんあったのって、そういう心の距離感も「お前にはわからない」の台詞が出てくる理由のひとつなのではないかと考えていました。

捨之介の言うことは太夫の言うとおり「あの人の言うことは道理」なのですが、捨之介が非常に道徳的で肯定しやすいマジョリティ的存在だとしたら蘭天は明らかにマイノリティに分類される意志を持った人たちです。捨之介の台詞に「天っていうのは高ぇんだ。(中略)でも、見えてる景色はひとりひとり違うはずなんだ」という言葉がありましたが、それって蘭天が思い描く天も捨之介とは違うはず。だからこそ蘭兵衛の死に際に「お前が選んだ道だ」と声をかけるんでしょうが、それまでの捨之介は「俺たちは自由に生きられるんだ、なぜそれがわからない!?」って言ってたなあ……と思うと、そりゃマイノリティとマジョリティが間に何のクッションもなくぶつかっても距離が開くだけだよなあと思いました。

捨之介の「救う」という行為は、善悪の判断を一旦無視してある局面から見ると信念を曲げさせること。言葉は時として凶器です。捨之介は「救う」という目的のために、言葉で知らず知らずのうちに天魔王にトドメを刺してたんじゃないのかなあ。

極め付けは斬鎧剣で天魔王の鎧を剥いだあとの台詞。「俺の背中には仲間がいる」という捨之介の言葉。捨之介は牢獄に入れられていたので聞いてなかったけど、天魔王の「殿は生きろと言った、そう蘭丸に伝えろと。俺のことは何ひとつ言わずに」っていう言葉はきっと天魔王の本音で、つまり誰からも必要とされなかった人なのでは。蘭兵衛は殿から愛されることを知っていて、捨之介は仲間がいるからと言う。じゃあ天魔王は?殿にも言葉を遺してもらえず、生駒ちゃんもいない、城にはもう誰も残っていない。誰からも必要とされなかったという事実を、天魔の鎧をすべて剥がれた状態で捨之介に突き付けられる。しかも敵方に頭を下げろと言う。…………って考えると、捨之介の言葉はあのときの天魔王にとって屈辱と凶器以外の何物でもなかったんじゃないかなあ…。

蘭兵衛の死よりも天魔王の死を目の当たりにした捨之介があそこまで崩れてしまったのって、自分がトドメになったっていう可能性を少しでも理解できたからなのかな。

 

そこからは見るのがつらくなるくらい崩れてしまう捨之介ですが、そこで希望の光になるのが霧丸なんですよね…。霧丸はあの舞台においてすごくキーパーソンだと思っています。捨之介が命をかけて救おうとしたふたりは結局救えなくて、自分だけ残ってしまってその自分さえも捨てかけていたときに、かつての捨之介の言葉で救われた霧丸が今度は捨之介を救うという希望。

霧丸は捨之介に二度「何なんだよお前は!」と問いますが、一度目はおなじみの台詞でごまかしちゃうんだよね。髑髏城で二度目の問いがあって、そのときの第一声が「俺はお前を助けに来たんだ」。そしてそれを今度は霧丸が捨之介のピンチに返すっていう……あぁ〜〜〜希望……!

 

あと今更ですが天魔王の最期の死に方、生駒ちゃんと一緒でしたね。ちゃんと意識して観たの何気に初めてだったかもしれない。喉じゃないけど、捨之介が持つ剣に自分から刺さりにいってた。それ見たときに、天魔王が生駒ちゃんを傍に置いてたのって彼女が賢いからかなってぼんやり考えてました。賢いし鋭いよね、家康の存在にも気付いてたし。もしかしたら天魔王は生駒ちゃんをかつての自分に重ねてたんですかね。

そして天魔王も賢い。自分の弱点を本当は知っているから逃げ道をいくつも用意してるんだろうけど、寝返った蘭兵衛に「貴様はそうやって逃げていろ」って言われてたのすんごい…こう…ぐっときた、蘭兵衛が真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐだから見破られてたんだろうな。その真っ直ぐさが逆に天魔王に都合よく使える駒として利用された部分もあるだろうけど…。あのふたりの、お互いを信用してないけど手を組んでる関係がなんとも言えん絶妙な危うさがあって好きです。

ただ、ふたりは別に殿に対しては同じ想いは持ってなかったんじゃないかなと思います。天魔王は殿と同化したい、蘭兵衛は殿の傍で仕えていたい、というかんじかと。蘭兵衛は天魔の鎧と仮面が殿のものだからそれに酔いしれてたけど、別にそれを自分が身につけていたいわけじゃなさそう。「あの方は先に逝ってしまわれた」って言い方してたし。それに対して天魔王は、蘭兵衛と一緒に天下統一したいと言うわりには天魔の鎧を一度も蘭兵衛には譲ってなかったね。最期に太夫の弾を受けたときも、身につけてたのが天魔の鎧だったら死なずに済んだろうけど、蘭兵衛はきっとそういうのは望んでなかったんだろうなあ。

舞台では描かれてなかったけど、捨之介が「見えてる景色はひとりひとり違う」と考えるようになった経緯が知りたいなと思いました。きっとその言葉が出るまでに何かしら経験したからそう考えたんじゃないかと思ってるんですが、捨之介が見て経験したものを蘭天も同じように共有できていたら、また少しは違ったのかなあと想像したりもします。生駒ちゃんと天魔王の関係もだけど、舞台で描かれていないこれまでの話が気になって仕方ない。こうやって想像を膨らませられるのも舞台の醍醐味ですかね?

 

髑髏城の一幕と二幕ってガラッと勢いが変わるけど、二幕の最後できちんと一幕の伏線回収するのが良いな!

太夫と兵庫の「(お金もらって)綺麗になる」「この金で綺麗になれ!」とか、兵庫とおっとうの「この金で田んぼでも買うかな」「おめさんにそれは似合わねえ!」とか。捨霧の関係もだけど、髑髏城での出来事を経て関係や台詞が逆転してるのが良いなあ。

あと二幕があんな悲しい終わり方だから、一幕の蘭兵衛がめっちゃ恋しい。おっとうが無界屋ガールズに近づいてくるのをさりげなく遮って「お引き取りください」と言わんばかりに首傾けるのとか……。あとソワレで捨之介が「天空のズララピュタ」ネタやってるのを笑わないようにどっか天井の方見て笑いを鎮めてるときの表情がおもしろすぎた。それ宮野さん喜ぶやつやで。

何度見ても女性陣が美しすぎるし、今回も生駒ちゃんは絵画のように美しかった……。無界屋ガールズもかわいいし天魔王に仕えてる女の子たちもかわいい。無界屋ガールズは桃色の子推しです。

 

わたしの登城はこれにて終了です。自分の感想を先に吐き出したかったので感想やレポを探しに行くのを控えていましたが、やっと解禁だ〜。またいろいろ発見できそう。生駒ちゃんと捨之介宛のお手紙も無事プレゼントBOXに投げ入れてきたので悔いはないです。素敵なものをたっくさん観せてもらえました!髑髏城の七人、ありがとう!!!